アルパインクライミング・沢登り・フリークライミング・地域研究などジャンルを問わず活動する山岳会

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佐久・五郎山南壁「どまんなかルート」開拓

当時中学生だった石鍋礼くんと知り合ったのは30年以上も前の話。
私はほとんど忘れてしまっているが、礼くんの鮮明な記憶では、その中学生を越沢バットレスだの松木沢のアイスクライミングだの、やばいところばかり連れまわしていたらしい。覚えているのは礼くんの実家の天ぷら屋さんで「息子が世話になってます。」とご馳走になったおいしい天ぷらのことだけ・・・できた親ですな。
礼くんはその後フリークライミング修業をして、海外で高難度フリールートを落とすまでになったが、仕事やら家庭やらでしばらくのブランク。そして3年ほどまえに一念発起?して1年間のオフ(キャリアブレイクというらしい)をとってクライミングしまくり、ついにはヨセミテの大岩壁El Capitanまで登ってきてしまったんだと。やるね。

さて私にとって残された課題の一つ、上高地帝国ホテルの裏手に見えている霞沢岳八右衛門沢上流の岩壁群を登ろうというお誘いに、礼くんは二つ返事でつきあってくれることとなった。礼くんはついこの間、穂高の滝谷でクライミングをしてきたばかりで、気持ちが穂高モードになっていたらしい。

準備万端、天気も比較的安定していることを見極めて出発。ところがバスに乗って上高地帝国ホテル前停留所をおりてすぐに、まさかの雨が降り出した。
携帯のレーダーアプリで確認するとどうやらピンポイントでここだけが雨の様子。
「降り出すならバス乗るまえにしてくれよ~」とか「なんでここだけ」とか、ぶつくさ言いながらも、スポット的に天気の悪いエリアに長居は無用と転進を決定。
山でのクライミング用の細いロープ(ダブルロープという)しか持っていないので、小川山などでのフリークライミングはしたくない。
そこで私にとっては7回目となる五郎山に新ルートを付け加えに行くこととなった。どれだけ五郎山好きなの?って声がどこからか聞こえてきそうなんだけど無視無視。

閑話休題。

朝9時台にはいつもの林道終点に駐車。
歩きなれた急登のアプローチを行き、11時には五郎山南壁の取付きへ。

五郎山南壁。左のスカイラインあたりが初登攀ルートの「五郎山ダイレクト」。赤線が今回登った「どまんなかルート」

マキヨセ岩峰と五郎山の鞍部(以下、五郎山コル)から五郎山にむかって左におりて行くと、この壁にあっては長めのラインがとれる五郎山ダイレクトの取付き。五郎山コルからそこまでは下部がオーバーハングしたフェースとなっている。
五郎山コルの稜線と五郎山南壁が接するあたりが、五郎山南壁のほぼ中央部分となる。
つまり南壁の中央部分から左のスカイラインの間は、登れば傾斜の強いフェースから始まる難しいルートとなる。
より美しいラインで、適度に易しく登りたい私としては、南壁の左フェースは当面対象外。
五郎山コルと南壁の接点から右にあたる右フェースはスケールは小さめ。しかしどこもそれほど傾斜がきつくはなく、楽しく登れそうなラインがいくつかある。

どまんなかルートの取付き

マキヨセ、五郎山のコルと南壁の接点を2~3メートル右に行ったあたりの緩めのフェースを取付きとする。ホールド多めで快適なフェース。最低限の支点だけとりながら快適にロープを伸ばすと、上部をハングにふさがれたテラス。ここでピッチを切る。1ピッチで抜けられそうな壁だが、60メートルのダブルロープ1本を半分にして30メートルダブル状態にして登っているので、早めにピッチを切った。ここで約20メートル。

頭上のハング下テラスまでが第一ピッチ(20m)
2ピッチ目を登りだす礼くん

2ピッチ目はハング右側のラインを登る。薄被りながらホールドは比較的豊富。小ハングのちょっとした切れ目をついてここを越える。
そのままフェース直上で五郎山ダイレクトの終了点にもなった山頂左下(西)に広がる大きなテラスの右端に出た。

小ハングを越えていく。
3ピッチ目の登りだし。

このテラスからは樹林を山頂まで行けることはわかっているのだが、すぐ横のフェースが岩茸に覆われてはいるものの登れそう。
少しでも長いルートにするか、とここを登ると、山頂に向かって岩のリッジが伸びているので、そのままリッジ上を登る。
若干ブッシュがあったりして鬱陶しいものの、きれいなリッジで気持ちよく高度をあげると山頂の一角にいきなり飛び出した。

3ピッチ目のフェース上から山頂に向かうリッジに移る。
3ピッチ目はじめのフェースをフォローする礼くん。
山頂に伸びるリッジ。
うしろに見えているのがマキヨセP2ルート上部。


さて山頂到着が12時20分くらい。易しいルートとはいえ1時間半弱で終わってしまった。
踏みあとを五郎山コルまで戻ったがまだ時間もあるので、マキヨセピークへの急峻な踏みあとを歩くくらいなら、マキヨセP2ルートの最終ピッチでも登って眺めのよいマキヨセ岩稜(踏みあとは北側斜面にある)を辿って帰ろうということになった。
このマキヨセP2最終ピッチの取付きまでは五郎山コルから樹林を通って歩いて行かれるのだ。
初登ルートを登るつもりだったが、その左にもう少し長いラインのとれそうなフェースがあり、そちらにルート変更。

マキヨセP2最終ピッチの左ルート。

初登ルートに比べて少し傾斜の強めのフェースを直上するルートを礼くんが選択。

空に向かってぐいぐい登ると尖ったピークに至る気持ちのよいピッチ。
これでこの日のクライミングはおしまい。
何度来ても気持ちのよいピーク。

さて帰りの車中で、ルートに一応名前つけておかないとと二人で検討。
位置的には五郎山南壁中央フェースとでもなるんだが、面白みもないね。
初登ルートの五郎山ダイレクトより、さらに山頂にまっすぐ抜けるルートだから「五郎山もっとダイレクトルート」とか。
いろいろ話し合った結果、あまり悪ふざけもしすぎず、中央ルートとかいうかわりに「南壁どまんなかルート」で行きましょうとなったわけ。

まああの南壁の正面フェースにルートが一本はあっていいし、これで易しめルートの開拓もほぼ一段落かな~という次第。

登ったのは2021年9月11日


五郎山南壁どまんなかルート
1P目 五郎山コルと南壁接点あたりのフェースをハング手前の顕著なテラスまで20m 4級
2P目 ハング右のフェースを直上。山頂直下の大きなテラスの右端まで。20m 4級
3P目 テラス右端のさらに右の岩茸で真っ黒なフェースを登って、山頂に至るスカイラインリッジを山頂まで。3級(一部4級)
登攀時間1時間半程度

マキヨセP2ルート最終ピッチの左ルート
マキヨセP2の顕著な岩峰の先端のみを登る。
初登ルートはハング状の壁の右に切れる凹角だが、今回はハング左のフェースを直上。20m 4級

佐久・マキヨセP2ルート開拓

五郎山から見るマキヨセP2
この下に垂直の下部岩壁が続く。

2020年11月に佐久・川上村の五郎山の岩壁にルート(五郎山ダイレクト)を拓いた際、顕著に見えていた岩峰、マキヨセのP2(もっとも五郎山寄りの目立つ岩峰)を登ってきた。岩峰は上部の尖った岩壁、中央のフェースと傾斜の強い下部壁からなっている。この写真では上部と中央フェースのみが見えている。

パートナーは五郎山ダイレクトの開拓をご一緒した長友さん。40台前半の脂の乗り切ったクライマーであるのはもとより、美意識、信条のはっきりとした聡明な人柄で、クライミング行を楽しくさせてくれる人。

今回はメパンナことS川さん、ニコちゃんことN口さんも同行して開拓の応援と写真撮影をしてくれた。
メパンナはアイゼンとアックスを使ったスポートクライミング、ドライツーリング(略してドラツー)の日本でも有数のプレイヤーで、今や世界を転戦中らしい。一緒に歩きながらもドラツー向きの岩壁がないかとエロい視線をそこここの岩壁にそそいでいた。股関節故障中で、開拓は参加せず。
ニコちゃんは長年アルパインをやってきた頼もしいクライマー仲間だが、やはり肩の故障でクライミングはできず。今回は仲間内で名シェフとして名高い料理の腕前をふるってもらいいい宴会ができた。

二人とも4回目の五郎山。マキヨセP2基部でロープを結ぶ。

このラインは五郎山ダイレクトを登ったあと、長友さんが偵察に来て、トップロープで一部試登をしている。写真にも写っている上部岩壁と中央フェースは登れそうだが、下部岩壁が傾斜が強く、岩も脆そうで恐ろしいとのこと。
歩いて取付きに行くと、たしかに中央フェース真下の岩壁は一部ハングしており、登るのは苦労しそうだ。
岩壁左端の張り出しを巻いて数メートル左に移動すると、軽い凹角状のフェースとなっており、傾斜も若干緩いし、小さなクラックがいくつか走っているので、カムは使えなくても最悪ハーケンを打てばなんとかいけそうだ。垂壁の直上に未練がありそうな長友さんに「弱点ついていこうよ!」と、ここを登ることとする。「逃げの山巡」の伝統は守らねば。

1P目は長友さんのリードで離陸。

メパンナ撮影、動画その1「離陸シーン」

メパンナ撮影動画2「支点なしで離陸」


メパンナ撮影動画3 「命を守るハーケンを打つ!」

こんな感じでスタート!
数メートル、支点がとれないままに登っていき、少し不安になりはじめたあたりで長友さん、ハーケンの設置を決断。ハーケンをあまりにも叩き込みすぎて、結局回収不可能に。(もちろんこれで正解)
ちなみにこれ以降はすべてナチュラルプロテクションで登り、残置物はこれだけとなった。

1P目終了点から。赤沼フォロー中。

1Pを終了したところで中央フェース下のバンドに出た。
この上はまた傾斜が強そうなので、長友さんの想定していたフェース下までバンドをトラバース。

バンドをトラバース中。

このバンドは岩峰横の樹林帯から歩いてくることもできるため、ここまでニコちゃんが来て待っていた。
五郎山側からは顕著に広がる中央フェースは赤沼のリード。フェースいっぱいに岩茸が広がっていて滑るが、傾斜も緩めで節理もほどほどにあって快適に登れる。

2P目。中央フェース。黒いのはすべて岩茸。
2P目、中央フェース登攀中の赤沼。上にいるのがメパンナ。長友さんは下でビレー中。

中央フェースは五郎山側、登山道から張り出した岩壁の上からよく見えるため、ニコちゃんがそこから撮影してくれた。3人写っているのがわかりますかね?上にメパンナが写ってるが、やはり草付きのバンドを歩いて来ていたため。各ピッチごとに仲間が来ていて「まるで山登っていって山頂ついたら駐車場があったみたいな状態だね~」と笑いあいながらの登攀。

2P目、中央フェース登攀中。上の写真とほぼ同じ時刻に下から撮影。
2P目終了。メパンナ撮影。
2P目終了シーンを撮影するメパンナを、五郎山側からニコちゃん撮影。
2P目を長友さんも登ってくる。
長友さん到着。メパンナ撮影。
3P目。簡単な岩稜を上部ピークの基部まで。

ここから3P目はロープもいらない程度の岩稜を最終ピッチとなる上部岩壁の基部に移動。上の写真にも3人写っている。上がリードしている長友さん、下がビレーする赤沼。真ん中は遊び・・・もとい応援!に来ているメパンナ。

3P目終了点で撮影。フォロー中の赤沼。
4P目、上部岩壁。

最終ピッチは最後のとんがりを登りつめる嬉しいピッチ。長友さんのリードで。

最終ピッチをフォローする赤沼。
終了点で自撮り。本当のピークは真後ろの岩の上だが、怖いのでここで撮影。

マキヨセP2ルート、クライミング概要:
1P目
下部岩壁。左寄りのルンゼを直上(5級)25m
2P目
バンドを右にトラバースして中央フェースを直上(4級)25m
3P目
優しい岩稜を上部岩壁基部まで(2級)15m
4P目
上部岩壁(岩峰)を直上(4級)20m
登攀開始5月23日9時30分~終了11時30分)

使用ギアはハーケン1(残置)小~中サイズのカム約2セット
グレードはムーブだけを考えれば甘目かもしれない。
スポートルートではないので、危険度などの主観部分も加味。

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