金峰山山頂から稜線を西に辿ると、南面に展開する千代の吹上の岩場は「金峰山最大の岩壁」として日本登山大系で紹介されている。
クライミングの対象となるのは東西に300mほど、高差で200-250mの間にある4本の岩稜周辺。
第一岩稜、第二岩稜は美しい岩稜とその西に側壁を有し、クライミングの対象となる。
第三岩稜は記録がほとんどなかった。
岩稜というよりは概ね4つの岩峰の集合体で、便宜上上からA峰、B峰、C峰、D峰と仮称した。
第四岩稜は比較的傾斜の緩いスラブ状の岩稜だが、岩稜自体は下部がクライミング対象となり、上部は樹林帯となる。岩稜の最上部に隣接して白い尖峰という岩峰がある。


【第一岩稜】
金峰山山頂から西に稜線を進むとすぐ、南に延びる顕著な岩稜が第一岩稜。
手前(金峰山より)の第一ルンゼを下降して取付くことができる。
岩稜には第一ルンゼ側の随所から取付くことができるが、末端の急なフェースの下までおりて、ルートファインディングをしながら岩稜にあがるのが楽しくお薦め。急なフェース(岩塔)部分は概ね右よりに登るほどやさしく登れるようだ。
第一岩稜上部の西側側壁が第一フェース。日本登山大系には「極楽ルート」というルートが紹介されている。
【第二岩稜】
第二岩稜自体と、西側側壁の第二フェースにある3本のルートが日本登山大系に紹介されている。
そのほかにも、第二フェースに最近拓かれたルートがあるらしい。
【第三岩稜】
ほとんど情報がなかった。
概ね4つの岩塔とその間をつなぐ稜により構成されていることがわかり、便宜上上からA峰、B峰、C峰、D峰と仮称した。

★ 第三岩稜A峰

A峰の頭からも岩稜がつづき、最後は稜線につきあげる小さな岩塔を登って第三岩稜が終了する。(A峰の頭を反対側、下から見たのが下の写真)

A峰へのアプローチは第二ルンゼまたは第三ルンゼからとなる。
第二ルンゼ(稜線から見て左)をおりた場合、A峰正面壁の途中あたりで垂直壁の上に出てしまい、ここから懸垂下降するか、そこからA峰に取付くこととなる。
こちらから見た正面壁は支点に乏しく、ここを避けると東側の側壁を登ることとなる。
1982年10月に星稜登高会の4名がこの側壁あたりを登っているとみられる記録がある。
山岳巡礼倶楽部でもA峰側壁を登ってA峰の頭に立っているが、星稜登高会の記録にあるルートと近いあたりを登っているものと思われる。
山岳巡礼倶楽部の記録(第三岩稜A峰)2024年10月
一方、正面壁は未踏と思われる。
これに取付くには2ルンゼからおりて懸垂することも可能だが、砂払いの頭から3ルンゼをおりてすぐにトラバースして取付きに到達することができそう。おそらくそちらのほうが早く楽なアプローチになると思われる。ただしトラバースポイントの特定が難しい。
★ 第三岩稜B峰

写真より下にさらに1ピッチ分くらいの岩場がある。
アプローチは3ルンゼから。
砂払いの頭から3ルンゼに入る。
右岸に第四岩稜の美しいスラブ状リッジが見えてくる。
第四岩稜のスラブ状壁の途中で左岸にD峰の頭が見える。

3ルンゼを下降していると左岸にD峰の頭が見える。その手前がC峰の側壁。ここまで来たら下りすぎ。
C峰側壁にそって登り返し、樹林帯の急登を歩いて登れるあたりからトラバースしていくと、B峰とC峰の間に出る。
B峰の基部に沿っておりていくとB峰に取付くことができる。
山岳巡礼倶楽部の記録(第三岩稜B峰)2025年6月
★ 第三岩稜D峰


第三岩稜D峰は岩稜の最下部なので、全体写真は撮れなかった。
下部のフェースから、壁の真ん中を行くクラック。そして最後はワイドクラックからチムニーを登ると頭に飛び出る変化に富んだ楽しいクライミングとなる。
壁の右手に残置ロープがあった。試登あとなのか、登ったのか、山仕事のものか不明。D峰の頭からはC峰側に懸垂下降となるが、残置支点等はなく、ボルト2本を打って、捨て縄を残してきた。この捨て縄はA峰やB峰からも見えた。
アプローチは3ルンゼを下り、前に写真を掲載した(B峰の紹介欄のD峰をまわりこむようにトラバースして取付く。
山岳巡礼倶楽部の記録(第三岩稜D峰正面壁)2024年9月
★ 第四岩稜~白い尖峰


第四岩稜の美しいスラブ。
左手奥が白い尖峰。
第四岩稜は3ルンゼから取付く。右手に見える顕著な第四岩稜に沿っておりていけばすぐそれとわかる岩稜の末端部に着く。
フェース状の末端壁からスラブにあがっていくが、ところどころ極端に風化していて、プロテクションもとりづらいので注意が必要。
上部はとても気持ちのよい「すたこらスラブ」。
スラブの終わったあたりから「赤いガリー」を左にトラバースしていけば白い尖峰に取り付ける。
白い尖峰の初登攀は「クラックをナッツの人工」で登ったと、日本登山大系に記載がある。
クラックがいくつかあり、まだルートはいくつかとれそう。下方左手ほど長く難しいように見える。
山岳巡礼倶楽部では右手上方のチョックストンのあるチムニーから取付いて登った。
山岳巡礼倶楽部の記録(第四岩稜~白い尖峰)2023年6月

千代の吹上へのアプローチはいくつか考えられる。
瑞牆山荘から富士見平小屋、大日岩を経て金峰山に向かう道が一般的だが、砂払の頭まででも3時間半くらいはかかる。
のんびりやるなら大日小屋で前夜一泊する手もあるが、大日小屋は手入れがされていないのでかなり汚い。ここにテントを張るのがよいかも。沢があって水はあるが、たまに涸れるらしい。
大弛峠からだと2時間程度で金峰山。そこから稜線を辿って各ルートの上部に至る。第一岩稜ならこちらが圧倒的に楽。
枇杷窪沢をつめてアプローチするのも楽しそう。枇杷窪沢自体は平凡な沢でとくに難しいところはないが、体力も時間も必要だろう。
枇杷窪沢をつめて第三岩稜のD峰、B峰、A峰をつないで登り、八幡尾根でも下山したら、クライミングだけでも10数ピッチとなり、かなりの大登攀となるだろう。