アルパインクライミング・沢登り・フリークライミング・地域研究などジャンルを問わず活動する山岳会

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天狗山ダイレクトから

あっこちゃん(中江明子さん)と天狗山。
昨年敗退した下部フェースを登るかと出かけたけど、寒さに負けて転進。天狗山ダイレクト。
(敗退の顛末はこちらに記載してます。)

天狗山南面の岩壁群では唯一、天狗山ダイレクトというルートが知られていて、あとの岩壁はほぼ情報がなかった。
情報の多い既成ルートにだけ人が集まり、あの広大な岩壁群に何もないのがもったいない。
そこに昨年から手を付け始めて、難しすぎずに登れそうなラインを狙って、6本ほど登って来た。(登ったラインの概要はこちら)
今さら一度は登った既成ルート、天狗山ダイレクトになんで行ったかと言うと、単なる宴会前のお茶濁しなんだけど・・・・壁のまんなかを一直線にあがるこのルート、実は自分の作ってきたルートのよき展望台だということがわかった。

東岩稜

いくつかの小さなフェースの連続した岩稜。
やぶ尾根歩き、ときどき岩登りというのんびり楽しめるやさしめのルート。

右壁右稜

天狗山ダイレクトに並行するように山頂に伸びあがる岩稜。
左が切れ落ちてた壁で、右は樹林帯。ちょうどその境目の岩稜を登るやさしく楽しいルート。

そして写真は撮らなかったけど南稜もよく見えた。

どれも山歩き以上、クライミング未満みたいなルートで、「ルート開拓」というよりは「ルート発掘」と言ったほうがしっくりくるようなところ。

最近はこういう山遊びが楽しくて仕方がない。
「情報のないところは怖いところ」ではないと思うよ。
情報がないから、「行って見て」、「自分に登れそうなラインにとりついてみて」、「だめならおりてくればいいんでない?」という遊び方ができるんじゃないかな。

こういうルートは誰かがすでに登っているかもしれないし、「ルート開拓」とか、「初登攀」とかいう言い方にはそぐわない。だから「ルート発掘」なんて言った方がいいのかもと思った。
最初に登ったあと、東岩稜も南稜もこの記録を見て登ってくれた人がいるし、右壁右稜も登りたいという人を案内したりもした。それがとっても嬉しい。

60歳過ぎて、クライミング人生が終わるまでに登れるルートがあと何本あるのかな。そんな想いを抱き始めて、難しいことやかっこいいことがしたいんではなく、いい仲間と「あーでもない、こーでもない」と言いながら、こうやって山と触れ合い、じゃれあって遊びたいんだよね~ということに気が付いた。

開拓とかいうもんじゃなくて、いい遊び場を発掘していきたいな~。

南相木・ずみ岩東尾根

ようやく熊出没情報も減ってきた。
夏の間不安定だった天気もこの何日かよさそう。
よし!例のやつ行っちゃえ!

てなわけで、テント持参で乗鞍界隈で藪漕ぎ・・・のはずが。
山が白いのです。

あれ?もう雪降っちゃった?
霜かもしれんけど。
霜だとしても藪漕ぎしたらずぶぬれだよね。

そういうわけで転進先は前から気になってたずみ岩。

いっつもエクストリームハイカーのブログやらなんやらを種本として、楽し気な岩場見つけたりしては遊んでいるわけですが、そんな「行ってみる」リストに載ってるずみ岩です。
なにげにレベル高いハイカーたちがなぜか岩場が怖くて引き返したとか、そういう記述が多い山です。
西の尾根から行く人が多いようですが、南相木ダム側の東尾根が最短。こっちから行ってみよう。

ご存じ、なぁ~~~~んにもない村、南相木村。
唯一の観光資源?南相木ダムのちょっと手前から歩き出し。(ちなみにとっても大きなロックフィルダム、南相木ダムはすげ~壮観だからぜひ観に行ってください。)

登山道はほぼないので、林道から適当に山腹にとりつきます。

GPS頼りで稜線目指しますが基本、斜面は急です。
紅葉を一気に飛び越えて散ってしまった赤や黄色の落ち葉のラッセル状態で、結構危険な場面が続きます。

稜線はなかなか気持ちがいいぞ。

稜線で自撮り

東の稜線を登って行くとだんだんに岩場っぽくなってきます。

山頂近くはしゃくなげが密生していますが、根本部分が少しだけ刈り払われてます。これにだいぶ助けられながら行くと、露岩に腐ったロープがだらり。

「え?これ行くんかいな?」
だいぶやばいすよ。下は切れ落ちていて、落ちたら助かりそうもないし、手がかりになりそうな木も根っこが浮いてる。そしてぶらさがったロープもぼろいし結び方もあやしい。
よく見ると、このルートはないでしょってのがわかりますな。
ロープと関係ないところが安定して登れまっせ。
なんかかなりやばい人?がルート設定したんかな~。
ハイカーが引き返したのってこのポイントかな?
ルートだと思って行ってしまって、事故が起きたりしないといいのですが。

ずみ岩。近づいてきました。

岩稜歩きも楽しめます。

振り返ると南相木ダム。

ずみ岩のピーク。

ピークでも自撮り。ウインドブレーカーをガムテープで補修してますが、背中はこの間のワイドクラック登りでずたずた。でもまだ使ってるし。買えよな!

話しそれますが、背負ってるのはグレゴリーの高級ザック。
妻とテント泊登山に行くのに、なんでもかんでも背負わされる前提で買ったいいやつで、腰ベルトやらが優秀なんで整備された登山道では最高なんですが・・・
藪はだめです。あっちこっち引っかかって歩きにくいこと。
藪は超シンプルなずだ袋型登攀ザックが一番ですね。

あのやばい岩場を下るのもなんだし、帰りはやぶ尾根をおりて茶屋ノ平なるあたりに。地図では登山道があるはずなんだけど、なぜかいきなり林道が現れる。しかも登山道とは関係のない方向に伸びてる。
林道無視してまたやぶこいで下山完了。

約3時間の楽しい藪&岩歩きでした。

冷山の黒曜石巨大露頭

山巡じじい会による黒曜石の巨大露頭探索行は、メンバーのわたべ氏の発案で始まった。
「なんでも大型バスサイズの巨大露頭が北八ヶ岳にあって、研究者たちはそれを見つけているけど場所を隠しているらしいぞ!」
というわけ。

やじうま根性にもとづくリサーチ(研究者の論文から場所を特定できそうなところを探したり、Google earthで探したり・・・)のうえで冷山周辺を散策した際、案外と簡単に露頭にたどりつけそうなヒントを得てしまった。(そのヒントを上記リンクの投稿に記載したら、それを見てたどり着いた方がいたようなので、なんかそれもいかんな・・・と当該テキストは削除いたしました。)
じじい会のおとぼけハイキングの際は時間切れでたどり着けなかったので、いつかはと思っていた露頭見学山行を今回、実行してみた。

目をつけていた某所より入山。
苔に覆われた北八ヶ岳特有の森歩きが気持ちよい。
時折現れるはいまつやシャクナゲの密集したやぶを避けつつ、いくつかの手掛かりをもとに森林内を徘徊。
ときおり現れる赤やピンクのテープに惑わされたり、以前にこのへんを探索したらしい方のGPSログなどを頼りに迷走のすえ、どうやらたどり着いたようだ。

こんなのがいきなり現れたので、例の巨大露頭なるものは近くにあると感じた。

周辺一帯、黒光りする黒曜石らしきものが顔を出していたり、落ちていたり。

巨大露頭というからには崖のようになっているはず・・・と目星をつけて地形を探るとそれらしき斜面が現れる。

この下は急傾斜に落ちているぞ。

これか?と思ったがバスほどのサイズではない。まあ研究者だって誇張はするかもね~とか思いつつ。

あったわ。10メートルはありそう。これなら大型バスと言ってもよいでしょう。お隣にも少しだけこれより小さいのがある。
ただ普通の苔に覆われた岩にしか見えない。でもところどころ黒光りするものが顔を出しているし、まあこの中が黒曜石なんでしょうね。このまわりにもいっぱい黒光りした岩があることだし。

この大岩の下は気持ちのよい広場になっていて、割れたビンやらキャンプした跡のような感じとかいろいろあって、これがその巨大露頭だと確信する。

なによりもあたりをつけていた場所にぴったりな場所。

探索行は以上でした。
ここからは研究者のつけたらしい踏み跡(と言っても結構とぎれとぎれでルーファイは難しい)を辿って30分ほどで国道に帰ることができた。(つまりこの場所さえわかればものの30分でたどり着ける場所ということですね。)

黒曜石露頭の学術的価値や興味については、素人の語ることではないので控えます。でも調べてみるととても面白い。
興味を持たれましたら、茅野市のHPや日本で唯一とかいう明治大学の黒曜石研究センターのHPをご参照ください。その他検索すると民間研究者もいろいろいるようですよ~。

佐久・天狗山「モフモフスラブ」& 宴会

「モフモフスラブ」は、昨年10月に登った右壁右稜の別名(?)ということになりますかね。これです↓。

モフモフの苔に覆われたこのピッチを登ってみた~いという、(女子だけの山岳会、銀嶺会の)宮田組長のリクエストに答えて、右壁右稜を再登攀することになった次第。まあいわゆる「観光的なクライミング」ってことですかね。

宮田組長に面子今のところ二人だから誰か誘ってもよいよ、と言ったら笹川淳子さん(通称メパンナ)を連れてきた。
「メパンナは一期生だから・・」と宮田組長。

そもそも赤沼とメパンナがFacebookを通じて知り合い、何度か一緒に山に行くうちに私のことを「開拓師匠」とか、「ボロ壁師匠」とか、はては「泥壁師匠」とか呼び始め、謎の師妹関係が生じていたらしく。
ちなみにメパンナは今やドライツーリングの世界で名をはせて、日本代表選手として世界を転戦中。
そしてメパンナ経由で知り合った宮田組長は「二期生」ということになるらしい。いや別に楽しく登っていただけで、何かを指導した覚えもないし・・・

まあそれはともかく。
割と長いおつきあいとなった仲間3人で観光クライミングに出かけたわけ。

さて10月8日(土曜)朝、川上村ナナーズで集合。
赤沼は前日五郎山あたりをうろちょろして、実はすでにお疲れモード。

左から宮田組長、赤沼、メパンナ。

赤沼は2回目なので「全部リードしていいよ」と言うと、二人でじゃんけんしてメパンナから登り始め。
「選手権を控えているので絶対怪我だけはしたくない。」とか言っているわりに泥っぽい壁をさっさと登っていきます。

宮田組長リード中

右壁右稜は有名な「天狗山ダイレクト」の右側にある樹林と接する岩稜で、樹林に逃げればいくらでも逃げられるけど、なるべく岩場の露出部分を登ろうよというルート。終了点は天狗山ダイレクトと同じ。

岩を選べばそれなりに高度感もあります。新緑が眩しい。
モフモフスラブピッチの導入部
以前より苔が白い気はする。苔がすべるが傾斜もさしてないので、難しいクライミングにはなりません。
赤沼はほぼフォロー

そして終了点。そこに腰を下ろす人影。
なんと真帆ちゃんでした。てかクライミング中のトランシーバーに割り込んできて、来ていることはわかっていたんだけど・・・

北杜市で出稼ぎしながらクライミング三昧中の真帆ちゃんは、なんと北杜市での仕事のお昼休みに天狗山山頂まで駆け上がり、終了点で待ち伏せしていた。

真帆ちゃん登場(右端)

そして午後の仕事に間に合わせるべく、山頂で記念撮影のあとさっさと下っていった。20分後には写真入りメッセージがきていたので、それくらいで駆け下りたものと思われる。

そして恒例、北杜市の赤沼家宴会。
あれ?一人増えてる?
宮田組長のお隣は越百小屋の名物のん兵衛女将、タマさん。
宮田組長の人たらし人脈の一人で、赤沼が「一緒に越百小屋行って紹介してくれ」と言っていたのだが、まさかここに連れてくるとは。
そして赤沼はすでに疲労の頂点。しばらく飲み食いしていったん退出。(寝室にね)

宴会場が騒々しくなったなと起きるとまたまた真帆ちゃん登場。
午後の仕事が終わって駆けつけてきた。ちなみに翌日も早朝から仕事。

その後タマさん、メパンナのジャニヲタ会話や、宮田、赤沼のクラリネットーギターデュオ、宮田カラオケ独演会と続き、最後は午前3時に至る女子トークとなったらしい。赤沼は日をまたぐ前に撃沈しておりました。

佐久・天狗山左壁「たまひよルート」開拓

たまひよルート開拓と言ったものの、岩登り要素よりは左壁の弱点を辿ってとりあえず左壁をトレースしたというところ。壁の正面突破はせず、田丸さんが日和ってルートどりしたから「たまひよルート」。

今回のパートナーはYCC (東京ヤングクライマーズクラブ)の家口さんと田丸さん。いつものでこぼこ酒飲みコンビ。

左壁は天狗山南面の岩場群の左端に広がるスラブ壁。

天狗山南面岩壁偵察時の写真
左壁の中心付近を田丸さんリードで離陸

一部垂直部の核心があり、ハーケンを叩き込んで突入するがかなり苦戦気味。節理の甘い岩壁なので灌木があてにならない。なんどか灌木をつかんで身体を上げようとした挙句、灌木が抜けて滑落。5~6メートル落ちてハーケンで停止。
幸い怪我もなかった様子だが、田丸さんこれでちと意地になったか?家口さんと私でルート変更を主張するが、もう一度トライするという
そして同じ場所で2度目の滑落。
「いや~あと3センチで登れたんだ!もう一度!」とか言う田丸さんを問答無用で戻って来させて、ルート変更。

左壁の岩壁基部に沿って右上。ちょっとしたテラスまで灌木、草付き帯をたどっていくと大きなテラス。というかすでにこの時点で壁全体の半分くらいまでの高さに達しているが・・・・
ここから再度、田丸さんリードで取付き。
今度は打って変わって慎重なルート選択で、バンドを2ピッチ左上していき、左壁左稜上に近いテラスに到達。
そして簡単なリッジを登って行くと終了点。
左壁の(おそらくは)初トレースとはなったものの、岩登り要素としては「巻き」に近いかな。

というわけで、田丸さんが日和って登った「たまひよルート」。
でもまあこれで左壁の様子がわかった。左壁はどこを登っても結構難しそうだな。

比志津金山塊・雨竜山

今秋狙っているヒマラヤの某山ソロクライミングの資金調達のため、北杜市で出稼ぎ中&クライミング修業中の斉藤真帆ちゃん。彼女の休日にあわせて3月8日、日帰りで山歩きに出かけた。

中央高速バスで山梨入りして真帆ちゃんの車で拾ってもらう。

男子のたしなみ(?)として運転を代わるが、道路上の雪でなんか若干滑るぞ、この車。コンパクトカーながらスタッドレスは履いているらしいんだが・・・
「中古のスタッドレスだから少しは減ってるかもしれないですけど~」とか言ってる真帆ちゃん。

もともと狙っていたのは西上州の人跡少ない岩稜なんだけど、雪に覆われた林道をかなり奥まで入る必要があり、結局あきらめて転進。転進先はいつもの比志津金山塊。主だったピークは踏んでいるけど、林道から近すぎて登り残した雨竜山。篤志家専門のマイナーピークだが、林道比志海岸寺線の途中、大尾根峠(比志津金山塊の最高峰笠無はここから北上して登れる。)から南下すれば20-30分もあれば着けそうな位置。冬期通行止めで大尾根峠まで入れないことは承知のうえで、みずがき湖側から行けるところまで車であがって歩くプラン。

塩川ダム側の県道23号から林道を1.5kmほど登ったところで倒木があって行き止まり。ここから歩きとする。

上図のスタート地点に車を停めて歩きだす。

林道を歩くつもりだったが、車を停めたところは尾根上になっていてかすかに踏み跡もある。方向的には雨竜山なのでここからいったん谷におりて山腹にとりついてみることにした。

山腹の急斜面から雨竜山に達する尾根を目指す。
土、根っこ、堆積した葉っぱのうえに中途半端に雪がついていて、かなり気を使う登り。結構危険なので、歩きやすさよりも落ちた時の安全度を考えてルート選択。

ようやく尾根に上がる。このまま尾根をあがっていくと少しずつ傾斜が落ちてきて雨竜山に達する。

山頂には一応山名標識があった。

下りは大尾根峠に向かって一気に駆け下る。こちらは北面で雪も適度についているので歩きやすい。正面は八ヶ岳。

佐久・天狗山右壁右稜

天狗山ダイレクトの右に広がる急峻なフェースの、右カンテライン(右稜)を10月21日に登ってきた。天狗山南面の岩場の中では東稜という位置づけになる。

赤線が登攀ライン。すぐ隣の左上していくリッジが天狗山ダイレクト。

天狗山南面岩壁群の偵察の際には、上図の上段岩壁、中段岩壁をまとめて上部岩壁と仮称していた。
しかしその後、3年をかけて「ひなばすビュー」というルートを開拓された方が、Rock and Snow誌の最新号(101号)への投稿で、このように記載されていたので、混乱を避けるためそちらにあわせることにした。(偵察記も後日修正予定)

青線が天狗山ダイレクト。赤線が今回のトラックレコード。

ところで10月8日に南面岩壁のまんなかあたりを登るつもりで、北杜市移住組クライマーのエリサさんと出かけた。下部岩壁のフェース部分を登り、上部岩壁(上段+中段岩壁)の左の稜へとつなげて山頂に至るプランだ。(左は下部フェース登攀中の写真)

この時は連日の山登りで疲れ切って風邪気味。しかも前夜からほとんど食事をしない状態で悪戦苦闘のクライミングをしている最中、一時的に記憶が混濁するというレアな体験をして敗退となった。

今回10月21日は関西系クライマーのアンジーと一緒にどこか登ろうと約束をしていたので、このルートの完成につきあってもらうこととした。

しかし関西から夜行バスで来たアンジーを、朝の新宿でピックアップしたはいいが、中央道の渋滞で登山口についたのは10時過ぎ。
この日は、時間のかかりそうな開拓プランは無理と判断。

馬越峠に向かう林道から見える岩壁が気になり、ではそちらを偵察し、あわよくば登ってしまおうということになった。

その岩壁は馬越峠から天狗山への登山道を歩くと、ちょうど中間くらいの小岩峰の南面にある。馬越峠側から見て天狗山の前衛峰ともいえる岩峰で、こちらも南面に上段、中段、下段とフェースが見える。ちなみに天狗山ダイレクトへのアプローチの際は、この前衛峰を越えた先のコルから南面に踏み跡を辿って下ることになる。

3つの岩場の基部を歩いてみたが、思っていたより規模が小さく、それぞれに1ピッチで終わりそう。しかも傾斜が強く結構ハードなクライミングとなりそう。う~む苦労する割に楽しいラインにはなりそうもないなぁ。

ふと天狗山ダイレクトのほうを見上げると、その右側に天狗山山頂のほうに伸びあがる岩稜がある。稜のすぐ右は樹林の尾根で、なんだか木登りになってしまう可能性も高いけど、見え隠れする岩を拾って登れば面白そうじゃない?なんてのりで、登ってみることにした。

前衛壁の下から見上げる右壁右稜。木に覆われているが岩登りの要素もありそうな予感。
稜の末端はこんな感じ。やはり木に覆われてる。ここから登ってみる。
アンジーのリードでスタート。ここからほぼつるべ(1ピッチごとにリードを交代する登り方)で登る。

すべて樹林の斜面を登ってもいけるが、あえて岩場部分を登っていく。

想像したよりも岩登りらしいところが多い。
振り返ると先ほど偵察してきた前衛壁南面の岩場が見える。
これが右壁。この稜上を登っていく。岩壁の上部と樹林の境目あたりを行くので、この辺からだいぶ高度感がでてきて楽しい。
緩やかなスラブ壁が所々出てくる。難しくはないが分厚いじゅうたんのような苔?に覆われている。足元がふわふわのスラブ登りだ。
だんだん樹林よりも岩場が多くなってくる。すでに相当楽しい気分になっている。
後半は右壁のふちを登っていくのでだいぶ高度感がある。
天狗山ダイレクトがすぐ近くになってきた。大勢登っているのがわかる。
難しくない快適岩稜。下は紅葉がまっさかり。


最後のほうは完全に岩登り。支点も木よりもカムが主流となってくる。
天狗山ダイレクトのクライマーを撮ってみた。
右稜上から、今日偵察してきた3段の岩場を振り返る。

結局10ピッチのクライミングで天狗山ダイレクトの終了点上について終了。踏み跡を辿ればすぐに山頂だ。

木登りでもいいやと登りはじめた岩稜だったが、紅葉をバックにやさしめの岩稜登りとなった。3時間ほどのことのほか楽しいクライミングだった。

こんなルートだから人が登ったような痕跡はないものの、私たちのような篤志家?が登っていないとも限らないねなどと会話しながらの下山となった。

前穂高岳・第二尾根

奥又白池で出会った79歳のオールドクライマーは、前穂三本槍や第一尾根を知っているほどのベテランだったが、第二尾根はさすがに知らなかった。
おそらくは、1930年台に奥又白を城としてきた旧制松本高校山岳部が第二尾根と名付け、信州大学山岳部と変わったあとも、唯一初期の部員だけが知っていた様子が伺える。

奥又白池から真上に伸びる奥又尾根はそのままA沢の左岸の稜を形成し、踏替点を左右に分けた手前のピークで終わる。この尾根の延長線上にあるのが第二尾根だ。つまり奥又尾根を第二尾根の下部であると言い換えることもできる。
第二尾根はA沢側に急峻な側稜を伸ばしつつ、その美しい岩稜は前穂三本槍へと収束していく。
つまり、前穂第二尾根は奥又白池から、前穂高岳山頂すぐ近くの前穂三本槍までほぼ直線的なラインとなる。

先月、前穂高岳第一尾根を登った際、この美しいラインを見て登ろうと決めた。

昨年霞沢岳で楽しいクライミングをしたメンバーで出かけた。
宮田実穂子さんは女子だけの山岳会、銀嶺会の組長。
石鍋礼くんは彼が中学生の頃からのつきあい。今年は仕事が忙しく山にはほとんど行けてない。

9月16日3連休の初日、ゆっくりと奥又白池に入り幕営。
9月17日、まだ暗い中を出発。全装備入ったザックが重い。

A沢に入り、踏替点あたりでやっと明るくなってきた。

踏替点からさらにA沢を登る。
うしろの岩峰は第一尾根第四支稜の頭。コルから右上に伸びるのが第一尾根主稜。

踏替点あたりから第二尾根を望む。
A沢をさらに少し登り、顕著なふたつの側稜(便宜上左稜、右稜と仮称)の間のルンゼに入る。どちらの稜も急峻にA沢に落ち込んでいる。左稜は美しい岩稜。右稜はハイマツと岩のミックス稜。

左稜と右稜間のルンゼをあがる。
チョックストンのところからロープを出して、赤沼リードでクライミング開始。
二つの稜が間近にせまっている。振り返ると対岸の第一尾根が見える。

チョックストーンの上は急なガレ石のルンゼ。途中から右稜のほうにスラブ壁を登って、ハイマツと岩のミックスした右稜に出て1P目終了。

背後には雲海が広がり、遠くに富士山が見える。

2P目(赤沼リード)は右稜のハイマツと岩の露出した境目あたりを登っていく。左に見えているのが左稜の頭。

ルンゼ上部から周囲の地形を赤沼が説明する。
終了点はもう近いなんて言ってるが、そうでもなかった。

主稜に抜ける手前に古いシュリンゲがあった。下降用の支点のように見える。
そういえば松高が雪崩事故を起こしたころ、このあたりを積雪を使って下降したという記述があったが・・・・90年も前の話だから違うよな~などと思いつつ。

開けた第二尾根の主稜にあがって2P目終了。

ここからは草付きと露岩の尾根となり、いったん傾斜が落ちる。

3P目(宮田リード)はルート選び放題。リードの特権?で、目の前の悪そうな露岩帯を登る。前穂三本槍の三本の意味がよくわかった。1番左の岩峰が第二尾根の終了点。

4P目は礼くんリード。やはり目の前の露岩を行くが、途中で草付きのほうに逃げていく。写真映えするスカイラインの岩稜を行けば?って言ったんだけどなぁ・・・(笑)

奥に見えるのは前穂北尾根の四峰。

5P目は赤沼。真正面に近づいてきた最後の岩稜基部までほぼ歩き。

5P目の稜線を振り返る。下の方(左端)に奥又白池がよく見える。右に見えるのが第一尾根の頭。すでにだいぶ下のほうだ。

さあここからが最後の核心部。6P目は赤沼リードで目の前のフェースを登っていく。

6P目、赤沼リードで前穂三本槍にせまっていく。

振り返ると、奥又白池からここまで、尾根が一筋に伸びあがってくる様子がよくわかる。このへんからかなり高度感がでてきて気持ちがよい。

核心部。奥又白全体に声が響きわたるのが気持ちよすぎて、いきなりイタリア歌曲を歌い出す音大出身の宮田さん。動画を撮るからもう一度歌えと言われ、かすれてしまった声でアンコールに応じる。

6P目終了点でビレイする赤沼。

ピラミダルな明神岳が遠くに見える。その白い岩壁が下又白谷奥壁。左手前が第一尾根第一支稜の頭(ウエストンピーク)。

すぐ近くにイワヒバリの巣があるらしい。

7P目赤沼リード。これが最終ピッチとなる。

目の前のフェースを越えて右の終了点に向かう。

7P目フォロー中の礼くん。

フェースを越えると右方の終了点に向かって美しいスラブ壁が伸びていた。

終了点は前穂三本槍の頭。控えめに言って最高のクライミングだった。

「こんな楽しいところ、よく見つけてきますね~」とか言われ、すっかりドヤ顔の赤沼。

前穂高岳山頂は目と鼻の先。

岳沢小屋で第一回打ち上げ。

北杜市の赤沼宅にて本格的な祝宴。

さて前穂高岳第二尾根。
変化に富んでいて、岩も脆くなく、難しすぎず、長大で、最高な景色ななかを前穂高山頂直下の三本槍まで一気につめあげる素敵なクライミングだった。今シーズンのベストクライミングと断言できる出来栄えとなった。
こんな素敵なところを見つけてくるなんてさすが~などと言われながら、「僕はずさないので」と大威張りで夜がふけていくのでありました。

そしてついにこの前穂高岳山頂部に目立つ、3つのピークすべての上に立つことができたのだ~

【メモ】
1P 4級 40m
2P 3級 25m
3P 4級 30m
4P 4級 25m
5P 2級 50m
6P 5級 50m
7P 4級 40m
使用ギア:カム1セット ハーケン2枚(回収)ダブルロープ2本 アルパインぬんちゃく適宜

2023年9月17日
奥又白池発4:00am~A沢踏替点5:30am~取付き6:10am~終了点9:30~前穂高岳山頂1015am~重太郎新道下山~上高地14:00pm

西上州・3岩峰の一筆書き登頂(鷹ノ巣岩・碧岩・大岩)

11月最初の週末は、長友さんと山に行くという約束だけがあった。
高山は寒いし、雪山には早い。
(赤沼「この時期はやっぱ西上州あたりの岩峰でクライミングかね~」
(長友)「西上州のクライミング、行きたかったんです!」
(赤沼)「どこか登りたいところある?」
(長友)「あのエリアはまだ妙義と大なげしあたりをちょろっと登ったくらい。西上州らしい岩峰やりたいっす。」

西上州らしい岩峰と言えば、立岩、碧岩、毛無岩、鹿岳あたりかね・・・

(赤沼)「じゃあまず入門ルートとして碧岩の西稜あたり?」
(赤沼心の声)「これならちょろいし、早く帰って宴会できるぞ。うししし」
(長友)「実は手術前(手の怪我で入れていたプレートを抜くらしい)最後のクライミングになるかもしれないので、赤沼さんを使い倒したいっす。」
(赤沼)「碧岩の既成ルートじゃ物足りないのね・・・そーいえばさ~、碧岩のすぐ近くに鷹ノ巣岩があって北稜は長いけど何度か登られてるみたい。そっちのほうがいいか?いや、いっそのこと連続登攀しちゃう?なんならその先にほとんど記録のない大岩って岩峰もあるから一筆書きで登っちゃう~?」
(長友)「それそれっ!やりましょう!」
ネットリサーチのあと・・・
(長友)「でも既成ルートあるところ登って歩くと、コースがジグザグになってしまって美しくないですね~」
(赤沼)「誰が既成ルート登ろうって言ったの?やるなら直線でしょ。ルートなければ作ればいい。鷹ノ巣岩の北稜登って、そこから碧岩に向かって東稜おりて、碧岩は西稜にルートあるからそれ登って、東稜おりて、さらに大岩に西から登れば直線で一筆書きできるよね。」
(長友)「Go! G0! ごぉ~~~~~!」

ルートのイメージ

(赤沼心の声)「しまった・・・・長友さん焚き付けてしまった。この3つの岩峰、それぞれが一日コースじゃん。山中ビバークで全装備背負って登るのつらすぎるな~。じゃあ荷物軽くして日帰りで、だめなら途中でおりてきちゃおう~そしたら宴会、うしししし」
(赤沼)「せっかく3つ連続で登るなら、日帰りでやっつけよう。スピード登攀もたまにはいいんじゃん?」

まあこんな感じの、赤沼の上から目線な対話があってルートが決定。

かくして情報の比較的少ない西上州の岩峰3つを、だいたいのラインだけ決めて、ルートファインディングしつつ、ルートがなければ開拓しつつ、しかも日帰りで終わらせるというハードル高めのプランができあがった。

さてそうなるとテーマは

  • 一日で終わるためにいかにスピードをあげるか。ルーファイに時間をかけない、ロープを使うのは最小限に、支点も必要最小限に、ロープワークの迅速化など。
  • ルートはなるべく3峰を直線的に結ぶことだが、地形を見て必然性のないラインは選ばない。
  • 長友さんは赤沼より早く歩いてはいけない。

【鷹ノ巣岩北稜】

写真は、碧岩方面から振り返った鷹ノ巣岩。右のスカイラインが北稜。

鷹ノ巣岩北稜はネットで検索すると、主に西上州のクライミングを愛するヲタククライマーを中心にそこそこ登られているらしい。
群馬県南牧村の観光地、三段の滝の駐車場から熊倉川を少しだけ上流に登ったところから取付き。日の出とともに取付くつもりが、林道の通行止めで迂回させられ1時間ほどのタイムロス。6時20分出発。すでに陽はだいぶ登っていた。

樹林の急登を行くと、草付きや灌木の混ざった岩場が出始める。

急登なので下界があっという間に遠ざかる。
鷹ノ巣岩本峰までにP1, P2という二つの岩峰を越えて行く。P1につくと鷹ノ巣岩本峰がだいぶ遠くに見える。

それなりに岩場も出てくる。
だいたいの岩場は木の根や草付きもホールドにしつつ、ノーロープで登っていく。途中3~4回ロープを出して鷹ノ巣岩に到達。

P2から鷹ノ巣岩
いやらしいところはロープをつけて。リードはすべて長友さん。
こういうのがかなりいやらしいクライミングになる。
鷹ノ巣岩、9時20分。3時間の登攀。

【鷹ノ巣岩東稜下降】

鷹ノ巣岩から東に向かって、碧岩、さらに大岩を目指す。

鷹ノ巣岩東稜もきりたったリッジ。リッジのすぐ南の急斜面を懸垂下降していく。

【動画】最後は若干かぶり気味のリッジ末端を懸垂下降。
沢が見えたら樹林の急斜面を歩いておりる。

この下が三段の滝上流の沢で、そこから少し対岸にあがると碧岩西稜の取付き。三段の滝上到着10時20分。下降に1時間かかった。

【碧岩西稜】

碧岩西稜は今回のラインの中では一番のポピュラールート。ガイド登山で来る人もいたりして、時には順番待ちが出るほどらしい。混んでるといやだな~

碧岩西稜取付きのコルに向かう。

三段の滝を見学に行ったりしてゆっくり休み、碧岩西稜取付きは10時45分くらい。

先行パーティーが1組いたものの、われわれがノーロープで登っているのを見て、快く先を譲ってくれた。3級程度の岩稜+木登りで飛ばしていく。
今朝登ってきた鷹ノ巣岩を振り返る。右のスカイラインを登り、こちら側のリッジすぐ左側をおりてきたわけだ。
【動画】碧岩西稜をフリーソロ中の長友さん
碧岩山頂すぐ手前の岩場は1Pだけロープを出したいと長友さんが主張。

時間かかって面倒くせ~な~と正直思ったが、実はこれが理想のパートナー。

彼は体力、精神力、登攀力ともに抜群だが、若干チキンな部分あり。
ただ自信があったり、格好つけて突っ込んで来られたんじゃあ危なくて一緒に登ってられないが、怖いときに怖いと言って一歩も引かない冷静さ、頑固さが頼もしい。格好つけないでいられるってすごく格好いい。

お昼の時報と同時に碧岩山頂に到着。

碧岩西稜は約1時間15分での登攀。

鷹ノ巣岩を振り返る。あそこを登っておりてきたか~と感慨しきり。

でもまだ先がある。

【碧岩東稜下降~大岩西稜】

碧岩東稜下降のはずなんだけど、正確に東は切り立ったフェース。

そこを無理におりる必然性は何もないので、少し傾斜の緩い南によるとそこは一般登山者の踏み跡。
のはずなんだが、ロープが張ってあったりはしてもやけにやばいぞ。
ロープ持ったままふられそうなリッジの下山。

結局一番必然性のあるラインには一般(篤志家)登山者向けの踏み跡があり、赤沼は「これ行っちゃえばいいんじゃない?」と言うが、長友さんは「一本北の尾根に入ればより直線的で美しいラインになるはず」と譲らず、楽させてもらえなかった。

西の尾根から大岩を望む。


またまた道なき道を歩き、軽めの岩稜を行くと先ほどの踏み跡に合流して大岩山頂に到着。13時。ほぼ歩きで1時間の行程。
大岩西稜は岩稜部分もあって登れないこともなかったが、はっきり言ってただの崖。あえて登る理由もなかったので歩いてすませた。

大岩山頂
碧岩方向に下山開始。

【写真ギャラリー】

紅葉の尾根を行く長友さん
なに喜んでるんだろ?

さて大岩からの下降は北面のフェースをおりるつもりだったが、道中に忘れ物もあり、碧岩の南面を巻いて三段の滝に至る踏み跡を利用することにした。
三段の滝経由で登山口駐車場着が15時15分。
9時間弱で3つのピークを登って帰ってくることができた。

【装備メモ】

二人とも運動靴とクライミングシューズを履き替えながらの行動。長友さんは急斜面で運動靴にチェーンスパイク装着。赤沼は面倒で靴のまま行動。
ロープはダブル2本。シュリンゲ多数とカム数個。ハーケンは1枚使用後回収。
懸垂下降はすべて灌木利用。

前穂高岳・下又白谷山巡稜下部フェース(F1左壁)

57年前(1965年)の8月に山岳巡礼倶楽部の先輩たちが登った山巡稜を再登しようと出かけた。

山巡稜は下又白谷下部本谷のF1手前の左壁(右岸岩壁)から、ひょうたん池に至るリッジで、下部はF1左壁のいやらしいスラブ壁を攀じ、上部はやぶ尾根を登ったものと思われる。

このルートは昭和37年(1962年)から昭和40年(1965年)にかけて、倶楽部をあげて行った下又白谷研究の一環として登られたもの。
山岳巡礼倶楽部の会報「GAMS」30周年記念号に掲載された記事に、1965年8月7日から8日にかけてこの山巡稜を登ったとの記載がある。
この時、「人間が見ることが出来なかった下又白谷の全貌が明らか」となり、「茶臼菱型岩壁、菱型右方ルンゼ(筆者注:今は菱型ルンゼと呼ばれている。)の発見」をし、さらに下部本谷の壮絶な滝群に目を瞠り、今後の研究テーマとしたようだ。

山巡稜下部フェース(F1左壁)の登攀は悪戦苦闘の連続だったようで、1965年8月7日はF1の落口と同高度の広いテラスまで登り、ロープをフィックスしたベースキャンプに戻り、翌日8日に途中まで「投げ網やザイルシュリンゲ等を使って登り切った」が、「そのうえは何一つないテラテラスラブに行手をはばまれ」、「アイスピンを打ち込」んでザイルトラバースのすえ、「モロくなった岩角をたよりに、リッジを廻り込んで、ガリーに入り」灌木帯に入ったとある。

さて山巡稜の再登計画である。
下又白谷にはだいぶ通って、下部本谷、F1洞穴ルート、菱型ルンゼ菱型スラブ(各スラブ合計3本)上部一尾根第一支稜(ウエストンリッジ)下又白谷奥壁と登ってきた。だが山巡稜はいやらしい露岩とかったるいヤブ尾根というイメージがあって、なかなか食指が向かなかった。

でもここまでくると、あの立ち位置から下又白谷下部本谷や上部の岩壁群を眺めてみたい。なにせ下又白谷登攀の歴史はここから始まったといってもいいのだから。

そういうわけで重い腰をあげた。
パートナーはひとまわり以上若い友人、長友さん。
赤沼のウエストンリッジの記録を読んで同ルートを登ったうえで連絡をくれた。意気投合して最近いくつかのクライミングを共にし、そして今では貴重なパートナーとなった。
やぶ上等、脆壁上等の頼もしいクライマーだ。
不運な事故で右手をつぶしてしまい、まだ治療中。でも登りたいらしい。なら行っちゃおう。

登ったのは2022年10月15日土曜。
長友さんは帰りのバスに間に合わなくても宴会ができるよう、上高地にテント、食料、酒をデポして行こうと主張したが、赤沼は「山巡の先輩が1960年台の装備と技術で登ったルートだよ。半日で終わって帰れるんでない?」と・・・つまり荷物軽くしたいのと、かなり甘く見ていたこともあるわけですな。

登攀具とお弁当だけ持って下又白谷本谷からF1へ。
ないだろうと踏んでた雪渓はまだ少し残っていた。

どうどうと水流を落とす大迫力のF1。その上の、左方向に伸びるスカイラインが山巡稜。つまりF1の左壁のどこかを登らなければこの稜には乗れない。

さあどこから取付くか。

F1左壁(この上のやぶ尾根にたどり着きたい)

赤沼はF1を過去に数回越えている。いずれも下部本谷や菱型スラブ、菱型ルンゼなどへのアプローチとしてだ。
雪渓の状態次第で、毎回ルートが異なる。
雪渓のない時期は左の岩壁を適当に登って、F1落ち口までバンドを拾ってトラバースをしていくのが良策。山巡稜に取付くにはF1落ち口の手前あたりから直上して藪に入ればいいだろう。

雪崩で磨かれたスラブは比較的硬いが、傾斜の緩いところはすべて土砂が堆積していて足場がない。
ごまかしごまかし無理矢理登っていく。見た目よりずっと悪い。
土砂の堆積したバンドをトラバースして弱点を探す。弱点とはいえ、垂直部をいくつか越えないと上には行けない。スラブ状の岩にはカムはあまり使えず、ところどころハーケンでプロテクションをとっていく。
うすかぶりのスラブを越していくと、見覚えのある洞穴がすぐ上にある。赤沼がはじめてこの壁を越えたときに拓いたルート(F1洞穴ルート)に、また寄ってきてしまったらしい。(写真上のハング下が洞穴状のテラスとなっている。)

洞穴ルートを拓いた際にはこの上のスラブで行き詰り、かなり怖い思いをしている。そこだけは避けたい。

1ピッチ目をフォローする長友さん。
傾斜の緩いところには土砂が堆積しているので、ホールド、スタンスは掘り出しながら登る。

2ピッチ目。
さて洞穴は避けたい。右のスラブは傾斜がきついが、岩はよく磨かれていて硬い。難しいフリーになるかもしれんが突っ込んでみるか・・・と、ボルト工作をはじめてみる。バランスをとるためにハーケンの先だけ浅いリスに打ち込んで、タイオフでビレーをとるが、ほとんど効いてない。

打ちながらこの上の様子を見るが、てらてらのスラブ上ではボルトは打てまい。次の支点がとれそうなところまで10mはランナウトするな~

ちと怖気づいて、ボルト工作は中止。
しょうがないので洞穴を目指す。

洞穴下までトラバースをしたはよいが、ここかぶってるね。
ハーケン1本効かせて突っ込むがかなり難しい。
ハイステップでやっと立ちこんだ足と岩の間にシュリンゲが入ってしまって、一瞬パニくりそうになったが、なんとか立て直し洞穴に突入。ほっ。

3ピッチ目。
洞穴はハングになっているので、右を越えるか、左を越えるか。
前回は左を行って大変な思いをしたと記憶している。
迷わず右へ。

と言っても右もかぶったフェースを越えないとその上のスラブには入れない。

ここもハーケン1本効かせて、フリークライミングちっくなムーブでスラブに立ちこむ。

なんとかスラブに入ったが、スラブと言ってもこの傾斜。
上に見えてるのが洞穴の屋根。つまりオーバーハング。

洞穴上のスラブを登って、F1落ち口につながるバンドに出た。
写真は洞穴上のスラブをフォローする長友さん。

F1左壁(前壁)の悪絶ぶりが感じられる写真をもう一枚。長友さんがまもなくバンドにつくところ。

3ピッチ目終了点でビレーする赤沼。
赤沼の真後ろがF1の落口。
ここからF1に行かず直上して上部のやぶ尾根に入ろうという作戦。

3ピッチ目終了点にはリングボルトが2本残置されていた。
自分が昔打ったものか、57年前のものか、それとも誰かが来たのか。
このほかにもかな~り昔風のハーケンやらボルトもあった。

4ピッチ目。
F1にはいかず、真上のやぶ尾根を目指し直上。
傾斜は強いがもうすぐ岩場はおしまいなので、気合を入れて行く。

最後の部分がどこを見てもかぶっている。
右のリッジをのぞき込むがやばそうなので、灌木のある真上を目指す。

このあたりがルート中最難。
このあとピッチの最後は灌木が1本あるハング。
持ってきたあぶみをかけたくなるが、この灌木が唯一の支点なのでフリーで頑張って小テラスへ。もうすぐそこがやぶ尾根だ。

4ピッチ目終了点。やぶ尾根はもうすぐそこ。

だが、だが、だが!

なんと赤沼がどこかで携帯を落としたことに気が付いた!
3ピッチ目終了点ではカメラとして使ったので、落としたのはこのピッチだ。

時刻はもう午後1時をまわっている。
ここまでは緩いラインでも探して朝のうちに来るつもりだったんだが・・・

「長友さん、ごめん!ここから降りていい?」
「いや~実は手の傷も痛み始めてるし、でもこちらから降りようとは言えなかったっす」

みたいなやりとりがあって下山確定。

携帯は3ピッチ目終了点あたりのブッシュで発見。無傷でした。

すごすごと懸垂下降

そんなわけで、山巡稜のトレースはならず。

でもかなり楽しい4ピッチの登攀だった。
いや山巡のじいさんたち(先日メンバーのひとりは亡くなった・・・・てか登った当時は若者だった)やるね~
というかこっちが今現在、彼らが登ったころよりずっとじじいじゃん。

もっとも57年前の登攀は8月なので、壁の半分くらいは雪渓が達していたかもしれないし、どのラインを登ったのかは結局よくわからなかった。

さて。われわれの登ったラインだが、途中にハーケンやらボルトの残置もあり、自分自身も含めて登っているのはたしかで、もちろん初登攀とかではない。

ただ岩登りのルートとしてはかなりユニークな特性を持ったものだとは思う。

まず美しく壮麗なF1の存在を常に感じられる登攀であること。
前壁や対岸の岩場の凄絶としか言いようのない迫力もまたひとつのエッセンスと言える。

そんなわけで岩登りのルートの一つとして(敗退記録としてではなく)紹介しておきたいとは思う。

上は長友さんが書き込んでくれたルート概要。
全4ピッチで各ピッチに最低一か所ずつ傾斜の強いうすかぶりスラブ壁があり、ネイリング技術、ルーファイ力、それになんとかごまかして登る突破力が必要とされる。(クライミング力とは言わないところがみそね・・・へへ。)

帰りの道中、グレードについて話し合った。
クライミングのグレードって主観以外ではありえない。
フリークライミングでよく使われるデシマルグレードは「ムーブ」だけを評価したものだと聞いた。

それって、今回のようなクライミングでのグレード評価にはなじまないよね。次登る人がいて、そんなグレードには何も伝えるところがないし。

じゃあグレードに怖さとか、ネイリング技術とか、ごまかし方?とか、脆さとかの要素を加味していいの?

てなわけでぐだぐだと話し合った結果、「全ピッチに最低一か所は5.9-5.10のムーブはあるし、4ピッチとも全部6級ってことでいいんじゃね?」てなところに落ち着いた。

誰か登って「4級しかね~よ」と言われても反論はしません。でも気を付けて登ってね~

使用ギアは:
ハーケン、アングル、薄刃など多数(懸垂用以外は回収)
ボルト使用せず
カム、1セット弱持参し使ったが全体に効きは甘い
残置ボルト、ハーケン等見つけたものは使用
50メートルダブルロープ2本
4ピッチに約4時間かかった。

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