奥又白池で出会った79歳のオールドクライマーは、前穂三本槍や第一尾根を知っているほどのベテランだったが、第二尾根はさすがに知らなかった。
おそらくは、1930年台に奥又白を城としてきた旧制松本高校山岳部が第二尾根と名付け、信州大学山岳部と変わったあとも、唯一初期の部員だけが知っていた様子が伺える。

奥又白池から真上に伸びる奥又尾根はそのままA沢の左岸の稜を形成し、踏替点を左右に分けた手前のピークで終わる。この尾根の延長線上にあるのが第二尾根だ。つまり奥又尾根を第二尾根の下部であると言い換えることもできる。
第二尾根はA沢側に急峻な側稜を伸ばしつつ、その美しい岩稜は前穂三本槍へと収束していく。
つまり、前穂第二尾根は奥又白池から、前穂高岳山頂すぐ近くの前穂三本槍までほぼ直線的なラインとなる。

先月、前穂高岳第一尾根を登った際、この美しいラインを見て登ろうと決めた。

昨年霞沢岳で楽しいクライミングをしたメンバーで出かけた。
宮田実穂子さんは女子だけの山岳会、銀嶺会の組長。
石鍋礼くんは彼が中学生の頃からのつきあい。今年は仕事が忙しく山にはほとんど行けてない。

9月16日3連休の初日、ゆっくりと奥又白池に入り幕営。
9月17日、まだ暗い中を出発。全装備入ったザックが重い。

A沢に入り、踏替点あたりでやっと明るくなってきた。

踏替点からさらにA沢を登る。
うしろの岩峰は第一尾根第四支稜の頭。コルから右上に伸びるのが第一尾根主稜。

踏替点あたりから第二尾根を望む。
A沢をさらに少し登り、顕著なふたつの側稜(便宜上左稜、右稜と仮称)の間のルンゼに入る。どちらの稜も急峻にA沢に落ち込んでいる。左稜は美しい岩稜。右稜はハイマツと岩のミックス稜。

左稜と右稜間のルンゼをあがる。
チョックストンのところからロープを出して、赤沼リードでクライミング開始。
二つの稜が間近にせまっている。振り返ると対岸の第一尾根が見える。

チョックストーンの上は急なガレ石のルンゼ。途中から右稜のほうにスラブ壁を登って、ハイマツと岩のミックスした右稜に出て1P目終了。

背後には雲海が広がり、遠くに富士山が見える。

2P目(赤沼リード)は右稜のハイマツと岩の露出した境目あたりを登っていく。左に見えているのが左稜の頭。

ルンゼ上部から周囲の地形を赤沼が説明する。
終了点はもう近いなんて言ってるが、そうでもなかった。

主稜に抜ける手前に古いシュリンゲがあった。下降用の支点のように見える。
そういえば松高が雪崩事故を起こしたころ、このあたりを積雪を使って下降したという記述があったが・・・・90年も前の話だから違うよな~などと思いつつ。

開けた第二尾根の主稜にあがって2P目終了。

ここからは草付きと露岩の尾根となり、いったん傾斜が落ちる。

3P目(宮田リード)はルート選び放題。リードの特権?で、目の前の悪そうな露岩帯を登る。前穂三本槍の三本の意味がよくわかった。1番左の岩峰が第二尾根の終了点。

4P目は礼くんリード。やはり目の前の露岩を行くが、途中で草付きのほうに逃げていく。写真映えするスカイラインの岩稜を行けば?って言ったんだけどなぁ・・・(笑)

奥に見えるのは前穂北尾根の四峰。

5P目は赤沼。真正面に近づいてきた最後の岩稜基部までほぼ歩き。

5P目の稜線を振り返る。下の方(左端)に奥又白池がよく見える。右に見えるのが第一尾根の頭。すでにだいぶ下のほうだ。

さあここからが最後の核心部。6P目は赤沼リードで目の前のフェースを登っていく。

6P目、赤沼リードで前穂三本槍にせまっていく。

振り返ると、奥又白池からここまで、尾根が一筋に伸びあがってくる様子がよくわかる。このへんからかなり高度感がでてきて気持ちがよい。

核心部。奥又白全体に声が響きわたるのが気持ちよすぎて、いきなりイタリア歌曲を歌い出す音大出身の宮田さん。動画を撮るからもう一度歌えと言われ、かすれてしまった声でアンコールに応じる。

6P目終了点でビレイする赤沼。

ピラミダルな明神岳が遠くに見える。その白い岩壁が下又白谷奥壁。左手前が第一尾根第一支稜の頭(ウエストンピーク)。

すぐ近くにイワヒバリの巣があるらしい。

7P目赤沼リード。これが最終ピッチとなる。

目の前のフェースを越えて右の終了点に向かう。

7P目フォロー中の礼くん。

フェースを越えると右方の終了点に向かって美しいスラブ壁が伸びていた。

終了点は前穂三本槍の頭。控えめに言って最高のクライミングだった。

「こんな楽しいところ、よく見つけてきますね~」とか言われ、すっかりドヤ顔の赤沼。

前穂高岳山頂は目と鼻の先。

岳沢小屋で第一回打ち上げ。

北杜市の赤沼宅にて本格的な祝宴。

さて前穂高岳第二尾根。
変化に富んでいて、岩も脆くなく、難しすぎず、長大で、最高な景色ななかを前穂高山頂直下の三本槍まで一気につめあげる素敵なクライミングだった。今シーズンのベストクライミングと断言できる出来栄えとなった。
こんな素敵なところを見つけてくるなんてさすが~などと言われながら、「僕はずさないので」と大威張りで夜がふけていくのでありました。

そしてついにこの前穂高岳山頂部に目立つ、3つのピークすべての上に立つことができたのだ~

【メモ】
1P 4級 40m
2P 3級 25m
3P 4級 30m
4P 4級 25m
5P 2級 50m
6P 5級 50m
7P 4級 40m
使用ギア:カム1セット ハーケン2枚(回収)ダブルロープ2本 アルパインぬんちゃく適宜

2023年9月17日
奥又白池発4:00am~A沢踏替点5:30am~取付き6:10am~終了点9:30~前穂高岳山頂1015am~重太郎新道下山~上高地14:00pm