11月最初の週末は、長友さんと山に行くという約束だけがあった。
高山は寒いし、雪山には早い。
(赤沼「この時期はやっぱ西上州あたりの岩峰でクライミングかね~」
(長友)「西上州のクライミング、行きたかったんです!」
(赤沼)「どこか登りたいところある?」
(長友)「あのエリアはまだ妙義と大なげしあたりをちょろっと登ったくらい。西上州らしい岩峰やりたいっす。」
西上州らしい岩峰と言えば、立岩、碧岩、毛無岩、鹿岳あたりかね・・・
(赤沼)「じゃあまず入門ルートとして碧岩の西稜あたり?」
(赤沼心の声)「これならちょろいし、早く帰って宴会できるぞ。うししし」
(長友)「実は手術前(手の怪我で入れていたプレートを抜くらしい)最後のクライミングになるかもしれないので、赤沼さんを使い倒したいっす。」
(赤沼)「碧岩の既成ルートじゃ物足りないのね・・・そーいえばさ~、碧岩のすぐ近くに鷹ノ巣岩があって北稜は長いけど何度か登られてるみたい。そっちのほうがいいか?いや、いっそのこと連続登攀しちゃう?なんならその先にほとんど記録のない大岩って岩峰もあるから一筆書きで登っちゃう~?」
(長友)「それそれっ!やりましょう!」
ネットリサーチのあと・・・
(長友)「でも既成ルートあるところ登って歩くと、コースがジグザグになってしまって美しくないですね~」
(赤沼)「誰が既成ルート登ろうって言ったの?やるなら直線でしょ。ルートなければ作ればいい。鷹ノ巣岩の北稜登って、そこから碧岩に向かって東稜おりて、碧岩は西稜にルートあるからそれ登って、東稜おりて、さらに大岩に西から登れば直線で一筆書きできるよね。」
(長友)「Go! G0! ごぉ~~~~~!」
(赤沼心の声)「しまった・・・・長友さん焚き付けてしまった。この3つの岩峰、それぞれが一日コースじゃん。山中ビバークで全装備背負って登るのつらすぎるな~。じゃあ荷物軽くして日帰りで、だめなら途中でおりてきちゃおう~そしたら宴会、うしししし」
(赤沼)「せっかく3つ連続で登るなら、日帰りでやっつけよう。スピード登攀もたまにはいいんじゃん?」
まあこんな感じの、赤沼の上から目線な対話があってルートが決定。
かくして情報の比較的少ない西上州の岩峰3つを、だいたいのラインだけ決めて、ルートファインディングしつつ、ルートがなければ開拓しつつ、しかも日帰りで終わらせるというハードル高めのプランができあがった。
さてそうなるとテーマは
- 一日で終わるためにいかにスピードをあげるか。ルーファイに時間をかけない、ロープを使うのは最小限に、支点も必要最小限に、ロープワークの迅速化など。
- ルートはなるべく3峰を直線的に結ぶことだが、地形を見て必然性のないラインは選ばない。
- 長友さんは赤沼より早く歩いてはいけない。
【鷹ノ巣岩北稜】
写真は、碧岩方面から振り返った鷹ノ巣岩。右のスカイラインが北稜。
鷹ノ巣岩北稜はネットで検索すると、主に西上州のクライミングを愛するヲタククライマーを中心にそこそこ登られているらしい。
群馬県南牧村の観光地、三段の滝の駐車場から熊倉川を少しだけ上流に登ったところから取付き。日の出とともに取付くつもりが、林道の通行止めで迂回させられ1時間ほどのタイムロス。6時20分出発。すでに陽はだいぶ登っていた。
樹林の急登を行くと、草付きや灌木の混ざった岩場が出始める。
それなりに岩場も出てくる。
だいたいの岩場は木の根や草付きもホールドにしつつ、ノーロープで登っていく。途中3~4回ロープを出して鷹ノ巣岩に到達。
【鷹ノ巣岩東稜下降】
鷹ノ巣岩から東に向かって、碧岩、さらに大岩を目指す。
鷹ノ巣岩東稜もきりたったリッジ。リッジのすぐ南の急斜面を懸垂下降していく。
この下が三段の滝上流の沢で、そこから少し対岸にあがると碧岩西稜の取付き。三段の滝上到着10時20分。下降に1時間かかった。
【碧岩西稜】
碧岩西稜は今回のラインの中では一番のポピュラールート。ガイド登山で来る人もいたりして、時には順番待ちが出るほどらしい。混んでるといやだな~
三段の滝を見学に行ったりしてゆっくり休み、碧岩西稜取付きは10時45分くらい。
時間かかって面倒くせ~な~と正直思ったが、実はこれが理想のパートナー。
彼は体力、精神力、登攀力ともに抜群だが、若干チキンな部分あり。
ただ自信があったり、格好つけて突っ込んで来られたんじゃあ危なくて一緒に登ってられないが、怖いときに怖いと言って一歩も引かない冷静さ、頑固さが頼もしい。格好つけないでいられるってすごく格好いい。
碧岩西稜は約1時間15分での登攀。
でもまだ先がある。
【碧岩東稜下降~大岩西稜】
そこを無理におりる必然性は何もないので、少し傾斜の緩い南によるとそこは一般登山者の踏み跡。
のはずなんだが、ロープが張ってあったりはしてもやけにやばいぞ。
ロープ持ったままふられそうなリッジの下山。
結局一番必然性のあるラインには一般(篤志家)登山者向けの踏み跡があり、赤沼は「これ行っちゃえばいいんじゃない?」と言うが、長友さんは「一本北の尾根に入ればより直線的で美しいラインになるはず」と譲らず、楽させてもらえなかった。
またまた道なき道を歩き、軽めの岩稜を行くと先ほどの踏み跡に合流して大岩山頂に到着。13時。ほぼ歩きで1時間の行程。
大岩西稜は岩稜部分もあって登れないこともなかったが、はっきり言ってただの崖。あえて登る理由もなかったので歩いてすませた。
【写真ギャラリー】
さて大岩からの下降は北面のフェースをおりるつもりだったが、道中に忘れ物もあり、碧岩の南面を巻いて三段の滝に至る踏み跡を利用することにした。
三段の滝経由で登山口駐車場着が15時15分。
9時間弱で3つのピークを登って帰ってくることができた。
【装備メモ】
二人とも運動靴とクライミングシューズを履き替えながらの行動。長友さんは急斜面で運動靴にチェーンスパイク装着。赤沼は面倒で靴のまま行動。
ロープはダブル2本。シュリンゲ多数とカム数個。ハーケンは1枚使用後回収。
懸垂下降はすべて灌木利用。