川上村から間近に見上げることのできる天狗山。
2019年(?)に山岳ガイドの佐藤勇介氏によって「天狗山ダイレクト」が開拓整備され、紹介されるまではほとんどクライミングの対象とはなっていなかったようだ。(下段フェースのクライミングを赤沼、エリサで試みた際、残置ハーケンを見出している。まったく登られていなかったわけではなさそうだが、記録は見つかっていない。)
さて多くのフェースやリッジを有するこの南面岩壁を、今年(2023年)からクライミング対象として何度か訪問してみた。
当面2024年7月現在の成果は下記。
2023年6月 各岩場の偵察行(赤沼、宮田)
2023年6月 なんやこれルート(赤沼、宮田、アンジー)
2023年10月 下段フェース敗退(赤沼、エリサにて3ピッチ目の途中まで)
2023年10月 右壁右稜ルート(赤沼、アンジー)
2024年4月 南稜(赤沼、ニコちゃん、梨恵さん)
2024年5月 東岩稜(赤沼、ニコちゃん)
2024年5月 左壁たまひよルート(赤沼、田丸、家口)
2024年6月 赤顔山南壁左稜(赤沼、斉藤) (天狗山ではないが、前衛となる山なので)
2024年7月 赤顔山南壁の偵察行(南壁の一部をトレース)
2024年7月 中段岩壁左稜~上段岩壁
一方、3年間を費やしてこの岩壁に1本のルートを開拓、整備された稲葉春紀さんという方が、Rock and Snow誌101号に「ひなばすビュー」という名前で発表されている。これは下段岩稜~中段岩壁~上段岩壁をつないで登ったものということらしい。また稲葉氏も過去のクライマーの形跡として「古いハーケン2本と浅打ちの錆びきったリングボルト1本」を見出していると書かれている。
赤沼、宮田の偵察行の際は上段岩壁と中段岩壁をあわせて上部岩壁、下段岩稜左のフェースを下部岩壁と仮称しているが、稲葉氏の命名にあわせてここでは上段岩壁、中段岩壁との呼称を使い、下部岩壁としていたものは下部フェースとして、わかる範囲のデータをまとめてみたい。
天狗山南面の岩場で現状(2024年7月)確認できているルートのだいたいの位置を書き入れてみた。天狗山ダイレクト右方に右壁右稜も登っているが、写真では裏側になるので下図参照。
この図は川上村から馬越峠に向かう林道の上から撮影したもの。つまり天狗山の東南方向からの写真。赤線が右稜。
馬越峠から天狗山に至る登山道の途中にある、前衛ピークに南面から伸びる岩稜。2024年5月に登って東岩稜と仮称した。核心部に残置ハーケン1本があったが、それについての情報はない。かなり昔山巡のわたべ氏がこの辺でハーケンを打ってきたという話は聞いているが・・・・
【各岩場の位置関係】
1)天狗山ダイレクト
山頂南直下の上部岩壁の右端あたりを目指して東南から伸びあがる岩稜に作られたルート
2)上段岩壁・中段岩壁・下部岩稜
天狗山南面の岩壁の中央付近。上段と中段は連続的なフェース。下部岩稜はその下部の断続的な岩稜。下部岩稜から、中段岩壁、上段岩壁のフェース上をつなげて作られたのが「ひなばすビュー」と思われる。
中段岩壁の左稜は1ピッチだけ岩登り。あとは樹林の尾根となる。上段岩壁も左稜付近は樹林の尾根となる。
3)下段フェース
中段岩壁の左稜から真下に20メートル程度下りたところを頂とするフェース。登った記録は見つからないが、2023年10月にトライした際、残置ハーケンがあった。フェースは急峻で一部岩の脆い破砕帯があり、クライミング難度は高めと思われる。フェースの中心部分を登ると3ピッチ程度。
4)左壁
下段フェースに連続して左方向に広がる岩壁。
下段フェースの一枚岩から、左に行くと岩溝帯をはさんで、左のほうにも一枚岩が広がっているので、左壁とした。
2024年5月に草付きのルンゼをつなぎ合わせてトレースをして「たまひよルート」としたが、岩登りをしたとは言いにくい巻道的ルート。
5)村境尾根側壁
天狗山から西に延びる尾根の側壁。規模はそれほど大きく見えない。
左壁左稜あたりのリッジを2ピッチ登ったあと左にトラバースして、灌木のある垂直ルンゼを登ったのが「なんやこれ」ルート。
6)右壁
天狗山ダイレクトの東面に並行しているように見える岩壁で、その右稜はやぶが多いが岩場を拾って登ったら10ピッチの難度低めで割と楽しいクライミングとなる。
7)前衛峰南面の岩場
岩場の基部にそって歩いてみた感じでは、こちらも上段、中段、下段の3段のフェースから構成されているようだ。それぞれに1ピッチ程度の規模と思われるが、フェース自体の傾斜は案外ときつく、難度の高いクライミングになるかもしれない。
2024年5月に各フェースの右側のリッジをつなげるような感じでトレース。
樹林の歩き、緩いスラブ壁、フェース、急なスラブ壁の核心など、山遊び的要素の強い楽しいルートとなった。東岩稜と仮称した。
私感ですが、天狗山南面には未開拓な部分が多くあり、「行ってみて、登れそうなところを登る」という、クライミング本来の楽しみ方のできる数少ない貴重なフィールドだと感じています。
こんなに楽しげなフィールドなので、ぜひどこでも登ってみて~(もちろん自己責任で)という意味合いで情報をまとめてます。もちろん間違いも多いと思いますので、修正や新情報についてご一報、共有いただけるようでしたら大変に嬉しいです。
【各岩場へのアプローチ】
青線が各岩場へのアプローチとして歩いたライン。GPSのトラックログを参照しながら、書き入れてみた。
1)馬越峠から天狗山に向かい、前衛の岩峰(仮称、前衛峰)手前から岩場を右に見ながら下降していくと、前衛峰下に3つに分かれて見える南面岩壁の下部に出ることができる。ここからさらに西に進むと、天狗山ダイレクトのアプローチルートに合流できる。(踏み跡なし)
2)前衛峰を乗越し、天狗山に登っていく手前のコルから、天狗山ダイレクトの取付きに向かう踏み跡がある。
天狗山ダイレクトの取付きから西へ岩場の基部に沿ったように歩いて行くと上段岩壁、中段岩壁の基部を経て、ちょっとした岩場のコルがある。コルからさらに西に進むと下部フェースと中段岩壁左稜の間あたりに至る。
3)さらに下部フェースのほうに下っていけば、そのまま下部フェース~左壁~村境尾根側壁の基部を歩いて、村境尾根まで歩いて行くことができる。
4)馬越峠から天狗山を越え、さらに登山道を歩いて、登山道が屈曲するあたりから2)の岩場のコル(中段岩壁と下部フェースの間)に下りて行くことができる。このあたりのフェースなどを登るなら、こちらのほうが天狗山ダイレクトの基部を経由するより少し早い。